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「ヘビを飼った男の話」
(本町地区)<全文>

 歌志内がまだ村であったころ、南市街地の町はずれに、日雇いをして暮らしを立てている吉田重太郎という人が住んでいました。ある年の真夏のことです。吉田さんは家の裏にある物置小屋を片付けていた時、そこに置いてあった米俵の中に、二匹の青大将がいるのを発見しました。

 ヘビを見た吉田さんは腰を抜かさんばかりにびっくりし、大きな声をあげながら、ヘビを外に追い出しました。翌日物置に行ってみると、昨日追い出したはずのヘビ二匹が、ちゃんと米俵の中にいます。そしてその翌日もいて、動こうとしないのです。吉田さんは「しかたがない」と思い、ヘビをそのままにしておくことにしました。

 しばらくしたある夜のこと、吉田さんは夢を見ました。それは、二匹のヘビがとぐろを巻いている夢でした。しかし、顔はそれはそれは美しい女の顔で、さめざめと涙を流しながら、次のように話すのでした。「どうか、私たちを人の目につかないようにして、七年の間だけ養っていただきたいのです」と。吉田さんは次の夜も、同じ夢をみたのでした。

 不思議な夢を見た吉田さんは、もうヘビを追い出すことをやめました。「これには、きっと何かわけがあるのだろう。そっとしておいてやろう」と思ったからでした。そして誰にもはなすまいと思いました。それからは、毎日毎日、白米や鳥の臓物などを与えてやりました。

 吉田さんの気持ちを知ってか、ヘビの方もすっかり慣れ、仕事から帰ってくると、身体に巻きついてよろこぶようになりました。でも、ヘビはだんだん大きくなり、四寸煙突ほどの太さと二間ほどの長さになりました。とても重く、かわいがるのもなかなかたいへんでした。

 こんなに大きくなってしまうと、食べ物もたくさんいります。毎日、二匹で白米を八合ぐらい食べました。日雇いをしている吉田さんにとって、これは大変なことでした。ヘビは時々外へ出て遊んでくるようでしたが、人目につくことは、決してありませんでした。

 時折、吉田さんの飼っている犬とじゃれていることもありましたが、とてもかわいいと思っていました。冬になると、食事は一切しません。冬眠しているのでしょう。ところが、このヘビのことを聞いた香具師が、吉田さんを訪ね「一匹一,五百円で売ってくれないか」といいました。しかし、約束した七年間は大切に育てるつもりであることを話し、ことわりました。

 また、噂は人から人へと伝わり、ぜひひと目見たいという人たちが訪ねて来ましたが、七年間の約束を理由に、ことわり続けました。吉田さんとヘビの信頼関係は深くなり、仕事から帰ってくると、我が子のようにかわいがるまでになりました。

 やがて、七年になろうとする、ある晩のことです。吉田さんの枕辺に、二匹のヘビがとても美しい女の人の姿になって現れました。そして、吉田さんに次のようにいいました。

 「私たち夫婦は、七年もの間あなたのお世話になりました。まことにありがとうございました。今年の八月十五日で、ちょうど満七年になります。私たちは北海道の、ある大きな沼の主になって行くことになりました。それというのも、あなたのおかげであり、言葉ではいい尽くせません。私たちがこの家を出るのは、六月十五日です。お別れは、私たち夫婦にとっても、とてもつらいのです。その気持ちだけは、わかっていただきたいと思います」と。

 夢うつつであった吉田さんは、ハッと気づいてヘビの姿を探しましたが、もうどこにも見当たりませんでした。それ以来、吉田さんは我が子を失ったように、「大変だ、大変だ」と大騒ぎをしました。青くなっている吉田さんを見て、人々は同情しましたが、どうしてやることもできませんでした。

 ちょうどこの年は辰の年であったので、二匹のヘビが龍になって昇天するのだろうと、人々は噂し合いました。しかし、吉田さんは、ヘビの言葉を信じ、「きっと大きな沼の主になって、幸福になっていることだろう。その方が、ヘビにとっていいのだ」と自分に言い聞かせていたということです。